7月にクロアチアのザグレブのとあるプライベートの皮膚科クリニックを訪れた。神経性皮膚炎だということだったため、特にこれという治療もなくストレスをためないことと痒くても掻かないこと、かゆみ止めのクリームをぬること、ドクターが処方したのはそれだけだった。

診察室の壁にはなぜかユダヤっぽい絵が掛かっていた。ふしぎに思いながら、ひょっとしたらドクターがユダヤ人なのかとかあれこれ思考を巡らせてみた。診察を終え受付にて治療代を払うと、粗品です(とは言わないが)と差し出された紙袋の中には死海の塩。受付の壁の棚をよく見るとJERICOと書かれた死海の塩が並んでいた。

ドクターが誇らしげに言った。「うちの医療機械はすべてトップレベルのイスラエル製なんですよ!死海の塩を外来患者さんにプレゼントしています!」年間いったいどのくらいの死海の塩がこのちいさなクリニックから配られているのだろうか。くみ上げた水量、その他のことが気になって仕方なかった。

「死海」というキーワードでこのウェブにたどり着く人も多いので、これも書いておこう。

インターネット上には死海や死海商品について書かれたウェブがたくさんある。中には、海抜マイナス400メートルに位置する死海周辺には紫外線がまったく届かず、日焼けしない、死海の水は年中温かい、など、「・・・えっ?」なこともよく目にする。

それを書いた人は、商品売りたさで、きっと一度も死海へ行ったこともないのにそう書いたのだろう。しかし当然、それはまちがった情報だ。死海には紫外線も届けば(どれだけかはカットされるらしいが)、あっという間にこんがり黒人になれる。でも日本人のアイデンティティを保持したい人は、夏場なら死海で浮く時もTシャツなどを着て入るのがベスト。

死海の水温は、真夏の夕方は別として、どちらかというと周辺の暑さに反して水面はヒヤリと冷たい(水中は水面よりも温かいが)。そして関西人のおせっかいついでにもうひとつ(笑)。死海の底は石や塩の結晶の塊がごろごろしているので、素足では岸から水中に入るまで、ちょっと、いやかなりちくちく痛い。そういうのが趣味でない人は、 そのまま捨ててもいいズックやむかし流行ったビニールのサンダル(ビーサンだと浮いて抜けるので危ない)などを履いたほうがよいと思いますヨ。

女性へのイスラエル土産といえば、困ったことに死海のコスメティック製品は避けられない。

今回、海外(イスラエルの外)に住む知人からの頼まれごとで、エルサレムのダウンタウンにある死海コスメ専門店に足を運んだのだが、二十年ほど前までは死海製品といえばとある一社のモノが専売特許のような感じで、そのマーケットのほとんどを占めていたように思うが、2008年現在では、その一社の他にも様々なブランドがあった。

頼まれたA社のクリーム(ハンドクリーム、ナイトクリーム、デイクリーム)を買い、つらつらとその店内を見回した。バスソルト、パック用の泥、ハンドクリームにフェイスクリーム、フットクリーム。いわゆる化粧品、エステ商品ならなんでもある。最近よく見かけるとある新しい製品にはブラックパール入りのものが、イスラエルにしてはかなり洗練されたデザインのパッケージで販売されている。

それを少々手に塗ってみたのだが、個人的にはこれでなくてはならないという商品ではなかった。それよりも、死海の成分はもちろんのこと、このブラックパールはいったいどこから来たのか。当然、生物のほとんど生存しない死海ではなく、どこか他所からのものだ。このクリームに注入されるためにどんな裏があるのだろうか、そこに疑問が湧いてしまった。

死海の水位低下や陥没などは、ヨルダン川から流れ込む水量が減ったためとある説では言われているが、それが理由でイスラエル側の死海のほとりにあれほどの陥没は起きないのではないだろうか。それよりも、もっと他に重大な原因があると、そう思っているのだが。

A社のウェブを読んでみたら、湖(死海のこと)とその岸からミネラルを採取していると書かれていた。

夜、ゴールデンタイムにての特集番組はのっけからがっかりさせられるようなもので、5分も経たないうちに先が見えてしまった。5人ほどーただ自己満足のために集まっただけのような人たちーが互いの意見を聞かずにぎゃーぎゃーと騒いでいるだけのものだった。もう少し統計的で現実を突きつけられるようなドキュメンタリーまたはジャーナリズムを期待したのがアホだった。

しかしひょっとしたらとの淡い期待を捨てきれず、15分ほどテレビをつけたままにして書き物をし始めた。そして、失望し、テレビの音を消した。

あれからインターネットで日本語のみでいろいろ検索してみたところ、これといって収穫はなかった。NHKで特集番組のようなものがあったそうで、どんな内容だったのか興味深い。他にはヨルダン政府がちょいとばかりこの問題のアグリーメントを公表しているらしい。日本語ではそれくらいの情報だけだったので、英語またはヘブライ語で調べないとダメか・・・。いずれにしろインターネット上でそれほど情報が得られるとは思いがたい。

結局わたしの思うところは、こういった自然環境破壊などはその国の政府がきちんと責任を持って管理する。それしかないと思うのだが、なんせイスラエルだから(まあ、どこの国でも自己利益につながらなければ動かないのは同じか・・・)、それを望んだところで空振りするのがおちだろうなと、でもそうとも言い切れないと少しは望みを持ちたい。

今月中にもういちど、雨がやって来る前に死海へ行けたらよいと、なんとか予定を調整中。

バスルームの石けんが切れてかけていた。クローゼットにずっと前に頂いた日本で販売している(日本とイスラエル企業合作)死海の泥ソープを見つけた。その石けんで手を洗いながら頭の中をこんなことが巡った。

自宅で死海の泥パック・セラピーをしなくてはならないほどわたしの肌は荒れているわけでも、皮膚疾患があるわけでもない。死海の泥(または塩、ミネラル)入りの石けんでなくてもまったくなんの問題はない。それでも、もし、死海の泥ソープなどを店頭で見かけたら、「肌がきれいになるのかな?」ぐらいの、ほんの好奇心で買ってしまうかもしれない。素朴な疑問1:死海製品を同じようにほんの好奇心で購入する人々が世界でどれだけいるのだろう。

死海製品の製造と販売は今やイスラエルはもとより日本、オーストラリア、など世界中でみられ、石けんからローション、ハンドクリーム、シャンプー、バスソルト、エステ用泥パック、など様々な用途の製品に加工されているようだ。死海の深層部から採掘した塩など、日本でも簡単にネット販売で購入でき、どんどんと死海製品は身近になりつつある感がある。インターネットで検索してみると、死海の塩や泥(クレイ)を使用した自宅での手作りソープなども人気のようだ。

イスラエルのベン・グリオン国際空港の免税店にも、イスラエルの土産品として様々なブランドの死海製品がずらりと並び、エルサレムのダウン・タウンにも死海製品の専門店が数軒ある。死海には観光バスが停まる直販店のようなものも建っている。

上に挙げたような様々な製品に含まれる死海の塩、泥、硫黄。偽物ではないとすれば、素朴な疑問2:これだけ世界に出回るには一体、年間、いや毎日どれくらいの泥や塩(水)がくみ上げられているのだろう。死海への影響は微々たるものなのか、そうではないのか。そういうことがこれから先何十年と続いていけば、どうなのだろう。手元の石けんのパッケージの成分表には、死海の泥、死海の塩、とだけが示され、何パーセントまたは何グラムなどの細かな表示は見あたらない。イスラエル企業のものも今度調べてみよう。

さて、ここまで書いて改めて思ったのだが、身の回りをちょいと見回せばこういうことはきっとたくさんある。近所のスーパーなどで何気なく並んでいる遠い沖縄や北海道の物産など、昔はなかなか手に入らなかったものが、今ではボーダーレス、年がら年中、消費者に手の届くところにある。そんなことを言うと、今の時代、身の回りの製品の 多かれ少なかれがそういうものかもしれないのだが・・・。こうして世界が小さくなった代わりに、その背景で失いつつあるものは何か。それは見たことも行ったこともない、どこかの異国での話に限ったことではない。

*今週、イスラエルのテレビで死海の危機に関する番組がある。最近この手の死海番組がよく放送されている。

*死海関連リンク
Wikipedia 死海
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